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〈円融の集い場〉産芸学官 円融の対話「個人とコミュニティはどうつながっていくのか」

〈円融の集い場〉産芸学官 円融の対話
「個人とコミュニティはどうつながっていくのか」
──変容する関係性をめぐる対話

場の熱狂、声の多様性、そして変容──「唯一無二の多様性」が拓くコミュニティの未来
髙市邦仁氏・木村正明氏・杉田尚子氏・近藤薫氏・中島隆博氏 セミナー&パネルディスカッション

 


■概要

・テーマ: 「個人とコミュニティはどうつながっていくか──変容する関係性をめぐる対話」
・日時: 2026年2月5日
・会場: 日本橋髙島屋三井ビルディング 10階 &BIZ conference およびウェビナー
・主催: 東京大学先端科学技術研究センター/一般社団法人 社会的価値共創フォーラム(共同主催)

■登壇者プロフィール

髙市邦仁氏
三井住友銀行 社会的価値創造推進部長。社会課題起点の事業開発やパートナー協創を推進。

木村正明氏
東京大学先端科学技術研究センター特任教授、ファジアーノ岡山オーナー。元ゴールドマン・サックス、元Jリーグ専務理事。

杉田尚子氏
株式会社アクアイグニス新規事業ディレクター。三重県多気町の複合施設「VISON」など地方創生事業を担当。

近藤薫氏
東京大学先端科学技術研究センター教授、東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター。

中島隆博氏
東京大学東洋文化研究所所長・教授。哲学を専門とし、公共性やコミュニティの本質を研究。

杉山正和氏(ファシリテーター)
東京大学先端科学技術研究センター所長・教授。エネルギーシステム分野。35超の自治体と連携協定を締結。

■サマリー

産業・学術・芸術・哲学の実践者が「個人とコミュニティの接続」を多角的に論じた。基調講演では企業コミュニティの成功と停滞(髙市氏)、スポーツによる地域コミュニティ構築の19年半(木村氏)、食と地方創生を軸にした「場」の創出(杉田氏)が報告された。パネルディスカッションでは「公共」概念の再構築、芸術における狂気と変容、唯一無二の体験とは何か、リアルとバーチャルの補完関係が議論され、「唯一無二の多様性こそが社会を豊かにする」という認識があぶりだされた。

■基調講演

1.髙市邦仁氏(SMBC)──1800社のコミュニティが問う「同じ熱量」の条件


2023年10月新設の社会的価値創造推進部の取り組みを紹介。コミュニティ「GREEN×GLOBE Partners」は約1800社が加盟するも、テーマの拡散と熱量の差から「あまりうまく活性化していない」と率直に認め、現在は少子化・食農に絞り再活性化を図っている。一方、アビスパ福岡とのDAO連携ではファンが経営参画し利益分配も受ける新モデルが成立。板橋区の子どもの居場所では約40社と連携し体験機会を提供する。「同じ意思、同じ方向を向いて活動したい欲求のある企業と繋がる」ことが鍵だと総括した。

2.木村正明氏(ファジアーノ岡山)──観客0人から全試合完売への19年半


地元岡山でファジアーノ岡山をゼロから立ち上げ、19年半で全試合完売・スポンサー894社・J1昇格を実現した軌跡を語った。アプローチの基本は、首長・議会・町内会・メディア・経済界・学術界という6つのステークホルダーへの「誠実で丁寧な日々の関係構築」。デジタルマーケティングでは「初回来場者の2回目来場率は2割、3回目は8%」という厳しい現実にPDCAで対峙する。2024年には3ヶ月で日本スポーツ界史上最大の50万署名を集め、新スタジアム建設を推進。94の連合町内会が署名を持ち寄るなど、日常の関係構築がいざという時のソフトパワーに転化する構図を示した。

3.杉田尚子氏(VISON)──東京ドーム24個分の「場」が生む地方創生


三重県多気町の大型複合施設「VISON」(35万坪)の取り組みを紹介。辻口博啓氏ら著名料理人と地域食材を組み合わせ、「そこでしか体験できない」価値を創出している。全国初の民間主導スマートインターチェンジ、サンセバスチャン通り(スペイン・バスク地方との連携)、世界初のコンランショップ完全プロデュースホテルなど独自性が高い。定期借地権ではなく土地を購入し木造で建て替える長期モデルは、伊勢神宮の式年遷宮が着想源だ。雇用創出は進むが周辺人口増加には至らず、自給自足カレッジを通じた移住者コミュニティの形成など試行錯誤が続く。

■パネルディスカッション

1.「公」でも「私」でもない「公共」の再構築


中島氏は「日本では『公』は『お上』、『私』は個人。コミュニティはその間の『公共』にある」と提起。明治期に71,000あった基礎自治体は現在約1,700に集約され、1自治体あたりの人口は570人から7万4,000人へ。「顔が見えない」規模になったことが地方の空洞化を加速させた。打開策として「新しい分権化をして、地方のリーダーのやる気を育てる。そして、各個人が主体となりうるものとしてのアートの活用がヒントになる」ことを提言。徳島県の神山まるごと高専のように、教育機関の地方展開が若い世代の定着に不可欠だと主張した。

2.「狂気」が火をつけ、コミュニティが育てる


「コミュニティを爆発的に活性化するきっかけは何か」という髙市氏の問いに対し、木村氏は「狂気じみた人が新しいムーブメントを作っている」と全国の事例を紹介。近藤氏は「芸術は制度化された瞬間に死ぬ。生きるために壊す行為だ」と語り、その狂気を社会が守ることで芸術を内包したコミュニティが成立すると述べた。杉山氏は「狂気が火をつけ」た後、大学など外部の視点がその価値を可視化し、行政や資金を呼び込む仕組みに繋げる役割を果たせると整理した。

3.「唯一無二」とは変容の体験である


杉田氏の「本物とは何か」という問いに、中島氏は哲学的に応答した。「出来事を通じて自分が変わる。その変容を言葉にでき、言葉にすることで感動が膨らむ。この経験を人間は絶対に欲しいと思う」。杉山氏は「変わっていくこと自体が唯一無二であり、予期しなかった変容こそが人間にとってこの上ない幸せのもと」と重ねた。中島氏はさらに「知性は脳ではなく身体に宿る。複数の人間の相互作用を通じて変容を促し新たな知性を生むことが、身体性を伴う知的活動だ」と述べ、スポーツや音楽がその典型であるとした。

4.リアルとバーチャルの補完関係


木村氏は、世界のプロスポーツで「DXでファンを増やし、リアルで超一流の体験を提供する」二極化が進んでいると報告。近藤氏はコロナ禍を経て「場の熱狂が一番重要だと証明された」と断言。杉田氏は「食はバーチャルでは体験できないが、映像が『もっとリアルを体験したい』という入口になる」と語った。髙市氏はデジタルとリアルを「補完関係」と位置づけ、どちらかが主になったり従になったりしながら両方が必要だとまとめた。

5.声の多様性が担保される社会へ


中島氏はオックスフォード大学コリン・メイヤー教授の「人を助けることのできる人を助ける」企業像を紹介し、「課題を解決することによって利益を上げる」方向性が登壇者全員の活動と通底すると指摘。AIの時代に「英語帝国主義に塗り固められる」リスクに対し、現場の経験の独自性こそが対抗軸になるとした。杉山氏は「唯一無二があちこちにたくさんある。それぞれのコミュニティが特徴を出し、違いを楽しめることが社会を生き生きさせる」と総括。個人がコミュニティを形作る上での重要な要素としての「唯一無二の多様性」が、産業・学術・芸術・哲学の円融の対話からあぶりだされてきた。


異なる現場から持ち寄られた実践知が交差し、「コミュニティの価値とは、そこで起きる唯一無二の変容の体験そのものである」という共通認識が浮かび上がった本セッション。個人とコミュニティの関係を問い直す対話は、「これからをどう生きるか」という問いへとつながっていた。 会場・オンラインを合わせて約100名が聴講し、メモを取りながら熱心に耳を傾けた。終了後には登壇者を囲む懇親会が催され、コミュニティの未来について語り合った。